私の部屋が、いつからゴミ屋敷になったのか、正確なことはもう覚えていません。仕事のストレスと孤独感から、何もかもが億劫になり、気づけば床はコンビニの弁当容器とペットボトルで埋め尽くされていました。異臭と害虫の発生に、さすがに生命の危機を感じた私は、震える手でインターネットを検索し、専門の清掃業者に助けを求めることにしました。電話口で事情を話すと、担当の方は驚くほど優しい声で、「お辛かったですね。大丈夫ですよ」と言ってくれました。後日、見積もりに来てくれたスタッフの方は、部屋の惨状を前にしても顔色一つ変えず、淡々と、しかし丁寧に作業内容と料金について説明してくれました。提示された見積もり金額は、約50万円。正直、目の前が暗くなるような金額でした。内訳は、ゴミの処分費が最も大きく、それに人件費、そして長年の汚れを落とすためのハウスクリーニングと消臭作業の費用が加算されていました。しかし、もう自分ではどうすることもできない、という絶望感の方が勝り、私はその場で契約書にサインをしました。作業当日、3人のスタッフの方々が、まるで手品のように、ゴミの山を分別し、運び出していきます。私はただ、隅でその光景をぼうぜんと眺めているだけでした。半日後、床が、壁が、窓が、何年ぶりかにその姿を現しました。ゴミがなくなった後、専門の機材を使った徹底的なクリーニングと消臭作業が行われ、部屋はまるで新築のように生まれ変わりました。50万円という大金は、確かに痛い出費でした。しかし、私が手に入れたのは、単に綺麗な部屋だけではありません。それは、健康で文化的な最低限度の生活を取り戻すための、そして、もう一度人生をやり直すための、いわば入場券だったのです。あのゴミの山の中で失いかけていた人間としての尊厳と、未来への希望。そう考えれば、あの50万円は、私の人生にとって最も価値のある投資だったと、今、心から思えます。