長期にわたり「放置」され、近隣住民に深刻な被害を及ぼしているゴミ屋敷に対して、最終手段として行政が「強制撤去」、すなわち「行政代執行」に踏み切るケースがあります。これは、自治体が住民に代わってごみを撤去する行為であり、その実現には厳しい法的要件と複雑な手続きが伴います。行政代執行が適用されるのは、主に以下のような状況です。一つは「火災発生の危険性が極めて高い」場合。大量の可燃物が堆積し、電気配線の老朽化や喫煙などが原因で、いつ火災が発生してもおかしくない状況である場合です。もう一つは「公衆衛生上の著しい危険がある」場合。強烈な異臭、害虫・害獣の大量発生により、近隣住民の健康被害が現実化している、あるいはその可能性が極めて高い場合です。これらの状況が、周辺住民の生命、身体、財産に危険を及ぼすと客観的に判断される必要があります。行政代執行に至るまでには、非常に厳格なプロセスが踏まれます。まず、自治体は住人に対し、書面による「指導」や「勧告」を繰り返します。改善が見られない場合、行政は「命令」を下し、期限内にごみを撤去するよう求めます。これらの段階で、自治体は住人に対し、清掃費用補助金や福祉サービスの紹介など、あらゆる支援策を提示し、自主的な改善を促します。しかし、それでも改善されない場合、最終的に「代執行令書」が発布され、行政が費用を負担して清掃業者を手配し、強制的にごみを撤去します。この際、撤去費用は後日、住人に「費用徴収」として請求されます。行政代執行の現実は、自治体にとって大きな負担となります。まず、手続きに多大な時間と労力がかかります。代執行に至るまでに数ヶ月から数年かかることも珍しくありません。また、撤去費用も高額になり、住人からの回収が困難な場合も多いため、自治体の財政を圧迫します。さらに、住人やその家族からの強い反発や訴訟のリスクも伴います。行政代執行は、あくまで最終手段であり、自治体としては、そこに至る前に住人の自主的な改善や、福祉的支援による解決を目指すのが一般的です。強制撤去は、ゴミ屋敷問題の物理的な解決にはなりますが、住人の心のケアや再発防止といった根本的な解決にはつながらないという課題も残ります。