その通報は地域の民生委員から市役所の福祉課にもたらされました。「山田さん(仮名・82歳男性)の家の様子がおかしい。最近全く姿を見かけず玄関先から異臭がする」。市の職員が地域包括支援センターのケアマネージャーと共に山田さん宅を訪れると、ドアの隙間からゴミが溢れ中は足の踏み場もないゴミ屋敷状態でした。山田さんは部屋の奥で衰弱しきった状態で発見されました。これが一人の孤立した高齢者を地域社会が救い出すまでの、多職種連携による支援の始まりでした。まず山田さんはすぐに病院に搬送され栄養失調と脱水症状の治療を受けました。医療ソーシャルワーカーが入院中の生活相談に応じます。その間にケアマネージャーは山田さんが退院後に安全な生活を送れるよう「支援チーム」の招集に動きました。ケアマネージャーはまず市の福祉課と連携し、山田さんが生活保護と介護保険を申請できるよう手続きをサポート。次に保健所の精神保健福祉士に相談し、山田さんが長年うつ状態にあった可能性を共有し、退院後の精神的なケアについて助言を求めました。そして最大の課題であるゴミ屋敷の片付けについては、市の社会福祉協議会に協力を依頼。社会福祉協議会は片付けのボランティアを募ると同時に提携している遺品整理も行う専門業者に連絡を取り、福祉的な観点からの片付け作業を依頼しました。業者は山田さんの大切な思い出の品を丁寧に仕分けながら部屋を見違えるようにきれいにしてくれました。退院後きれいになった自宅に戻った山田さん。彼の元には介護保険サービスによるヘルパーが定期的に訪れ、食事の準備や掃除、ゴミ出しを手伝います。またデイサービスにも通い始め少しずつ他者との交流を取り戻していきました。この事例は民生委員、行政、医療、福祉そして民間業者がそれぞれの専門性を持ち寄り連携することで、ゴミ屋敷という複雑な問題を根本から解決へと導いた理想的な支援の形を示しています。